がら、ジュピターは、一、二度落ちそうになったのをやっとまぬかれたのち、とうとう最初の大きな樹《き》の股《また》のところまで這《は》い登ってゆき、もう仕事は実質的にはすっかりすんでしまったと考えたらしかった。地上から約六、七十フィートばかり登ったのではあるけれど、木登りの危険[#「危険」に傍点]は事実もう去ったのだ。
「今度はどっちへ行くんでがす? ウィル旦那」と彼は尋ねた。
「やっぱりいちばん大きな枝を登るんだ、――こっち側のだぞ」とルグランが言った。黒人はすぐその言葉にしたがって、なんの苦もなさそうに、だんだん高く登ってゆき、とうとう彼のずんぐりした姿は、そのまわりの茂った樹の葉のあいだから少しも見えなくなってしまった。やがて彼の声が、遠くから呼びかけるように聞えてきた。
「まだどのくれえ登るんでがすかい?」
「どれくらい登ったんだ?」とルグランがきいた。
「ずいぶん高うがす」と黒人が答えた。「木のてっぺんの隙間《すきま》から空が見えますだ」
「空なんかどうでもいい。がおれの言うことをよく聞けよ。幹の下の方を見て、こっち側のお前の下の枝を勘定してみろ。いくつ枝を越したか?」
「一つ、
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