っていたのでね。あんなに憎らしそうな顔の集まっているのを僕は今までに一度も見たことがありません。しかも、あいつはその真ん中に突っ立って、むっとした、せせら笑うような冷ややかな態度をして、――びくついてもいることは僕にはわかったが、――しかし、ねえ、全くサタンのように平気で押し通しているんですよ。奴はこう言ったものです。『もし君たちがこの事を利用しようというのなら、もちろん僕はどうにも仕方がない。紳士なら誰だっていざこざは避けたいのだからね、』とね。『金額を言い給え、』と奴は言いました。で、我々は子供の家の者のために奴から百ポンドせびり取ることにしました。奴は明らかにいやだと頑張りたかったらしいのですが、我々みんなの様子には何となく危害でも加えそうな気勢があったので、とうとう折れてでました。次はその金を受け取ることですが、奴がどこへ我々を連れて行ったと思います? なんと、それがあの戸口のところなんですよ。――鍵をすっと取り出して、中へ入り、やがて、金貨でかれこれ十ポンドばかりと、残額をクーツ銀行宛の小切手にしたのとを持って出て来たんです。その小切手は持参人払いに振出したもので、ある名前が
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