もちろん当然のことでしょう。だが、僕の驚いたのは医者の場合だったのです。その男は世間なみの平凡な医者で、特に年寄りでも若者でもなく、特別の変った様子もしてもいず、ひどいエディンバラ訛りがあって、嚢笛《ふくろぶえ》のように鈍感な男でした。それがねえ、その男もやはり僕たちほかの者みんなと同じなんです。僕のつかまえている男を見るたびに、そのお医者はそいつを殺してでもやりたい気持になって胸がむかむかして真っ蒼になるのが、僕にはわかったのです。僕が心の中で思っていることが医者にわかったように、医者が心の中で思っていることも僕にはわかりました。でも、殺すなんてできることじゃなし、我々はその次のできるだけのことをしてやりました。我々はその男に言ってやったのです。我々はその事を世間に公表して、君の名前がロンドンの端から端までも鼻つまみになるようにしてやることができるし、またそうしてやるつもりだ。もし君に友人なり信用なりがあるなら、我々は必ずそれをなくさせてやる、とね。そして、我々は猛烈にまくし立てている間じゅう、女たちをできるだけそいつに寄せつけないようにしていました。何しろ女たちは夜叉みたいに猛り立
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