なさった方がいい。」
「そんならそうと言って下さればいいのに、」と相手はちょっと不機嫌な様子で答えた。「しかし、僕は学者的にと言ってもいいくらいに正確に話したのです。そいつは鍵を持っていました。それどころか、今でも持っていますよ。一週間とたたない前、彼がそれを使っているのを僕は見たのです。」
 アッタスン氏は深い溜息をついたが、一言もいわなかった。すると若者の方がつづけてまた言いだした。「何も言うものではないという教訓をまた一つ得ましたよ、」と彼は言った。「自分のおしゃべりが恥ずかしくなりました。このことはもう二度とは触れないという約束をしようじゃありませんか。」
「よろしいとも、」と弁護士は言った。「約束しよう、リチャード。」

     ハイド氏の捜索

 その晩、アッタスン氏は暗い気分で自分のひとり住居へ帰って来て、食欲もなしに夕食の卓についた。いつも日曜などには、食事がすむと、炉の傍らに腰を下ろして、何か難かしい神学の書物を一冊机の上にのせて読み、近くの教会の時計が十二時を打つと、厳粛に感謝して床につくのが、習慣であった。しかし、この夜の彼は、食卓がかたづけられると直ぐ、蝋燭を
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