うち明けないとは限らないのであった。ゲストはたびたび用事で博士のところへ行ったことがあるし、プールをも知っていた。彼はハイド氏があの家と心やすくしていることを聞いていないはずはあるまい。彼なら結論をひき出せるかも知れない。とすれば、あの不可解な謎をとく手紙を彼に見せてもよくはないだろうか? それに、ことに、ゲストは手跡の熱心な研究家だし鑑定家だから、手紙を見せられても、それを当然な親切なことと考えるだろうから。その上、その事務員は助言をすることのできる男で、ああいう奇妙な書面を読んでなんとか意見をもらさぬことはないだろう。そうすればその意見によってアッタスン氏は今後の方針をきめられるかも知れない。
「ダンヴァーズ卿のはお気の毒な事件だね、」と彼は言った。
「全くさようでございます。ずいぶん世間の同情をひいております、」とゲストと[#「ゲストと」はママ]答えた。「犯人はもちろん気違いでございましょうね。」
「そのことについて君の意見を聞きたいのだがね、」とアッタスンが答えた。「僕はここにその犯人の書いた書面を持っているのだ。これはここだけの話だよ。僕はそれをどうしたらいいかよくわからないのだからね。何にしても厄介なことなんだ。だが、これだ。全く君のお手の物さ。殺人犯の自筆だよ。」
 ゲストの眼は輝いた。そして彼は直ぐに腰を下ろして、それを熱心に調べた。「いいえ、」と彼は言った、「気違いじゃありませんな。けどれも妙な筆跡ですね。」
「それにどう考えてみてもその書き手も大へん妙な男なんだ、」と弁護士が言い足した。
 ちょうどその時、召使が一通の手紙を持って入ってきた。
「それはジーキル博士からのでございますか?」と事務員は訊いた。「見覚えのある手だと思いました。何か内証のもので、アッタスンさん?」
「ただ晩餐の招待状だよ。どうして? これを見たいのかい?」
「はあ、ちょっと。有難うございます。」そして事務員はその二枚の紙片を並べて、しきりにその内容を見比べた。「有難うございました、」と彼はようやくその両方とも返しながら言った。「大へん興味のある筆跡です。」
 話がとぎれた。その間アッタスン氏は心のなかで悶えていた。「どうして[#「「どうして」は底本では「」どうして」]君はそれを比べたのかね、ゲスト?」と彼は突然きいた。
「さようで、」と事務員が答えた、「少し不思議な類似点
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