。彼は、私の予期したとおり、私のとまったく同じ衣装を身につけていた。剣をつるす深紅色の帯を腰のまわりに巻いた、青|天鵞絨《びろうど》のスペイン風の外套を纏《まと》っているのだ。黒い絹の仮面が彼の顔をすっかり蔽《おお》いかくしていた。
「ごろつきめ!」と激怒のためにしゃがれた声で私は言った。私の口から出る一語一語は、自分の怒りをさらに焚《た》きつける新たな薪《まき》のようであった。「ごろつきめ! かたりめ! いまいましい悪党め! ――己《おれ》はきさまに――きさまに死ぬまでもつきまとわれてはいないぞ[#「いないぞ」に傍点]! ついて来い! でなけりゃこの場で突き刺してやるぞ!」――そして私は、抵抗のできないように彼を一緒にひきずりながら、舞踏室から隣の小さな控《ひかえ》の間《ま》へと跳び込んだ。
 そこへ入ると、はげしく彼を突きはなした。彼が壁につき当ってよろめいているあいだに、私は呪咀《じゅそ》の言葉とともに扉《とびら》をしめて、彼に剣を抜けと命じた。彼はほんのちょっとのあいだ躊躇《ちゅうちょ》したが、やがて、かすかな溜息《ためいき》をつきながら、黙って剣を抜き、防御の身がまえをした。
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