なく屈してきた。ウィルスンの気高い性格と、尊厳な叡知《えいち》と、一見遍在していて全知全能であるように思われることとにたいして、自分の常にいだいていた深い畏怖《いふ》の情は、彼の性質のなかのある他の特性と傲慢《ごうまん》さとが自分に起させた恐怖とまで言うべき感じとあいまって、これまでは、私に、自分がまったく無力でどうにもできない者だという考えを与え、また彼の専断的な意志にひどく厭々ながら盲従するようにさせてきたのであった。しかし、近ごろになって、私はまるで酒びたりになり、それが自分の遺伝的な気質に狂おしいくらいの影響を与えて、いよいよ自分を抑えきれなくなった。私は不平を鳴らし――ためらい――抵抗しはじめるようになった。そして、自分自身の強さが増してくるにつれて自分の迫害者の強さがそれに比例して減っていくように私が信じたのは、ただ気のせいであろうか? それがいずれにしろ、私はいまや燃えるような希望の霊感を感じはじめ、とうとう、こっそりと、このうえ決して服従して奴隷《どれい》扱いにされまいという断固とした決心を固めたのであった。
ローマで、一八――年の謝肉祭《カーニバル》のあいだ、私はナ
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