らくもっと危険な誘惑物なども欠けてはいなかった。というわけだったから、私たちの有頂天の乱痴気騒ぎがその絶頂に達しているうちに、東の方ははやかすかにほんのりと白みかかっていたのだった。骨牌《かるた》と酩酊《めいてい》とのために狂ったように興奮して、私がまさにいつも以上の不埒《ふらち》な言葉を吐いて乾杯を強《し》いようとしていたちょうどこのとき、とつぜん自分の注意は、部屋の扉が少しではあるがはげしく開かれて、外から一人の小使がせかせかした声で呼んでいるのに、逸《そ》らされた。彼は、誰か急用のあるらしい人が、玄関のところで私に会って話したいと言っている、と告げた。
 ひどく酒に酔っぱらっていたので、この思いがけない邪魔が入ったことは、私を驚かせるよりもむしろ喜ばせた。すぐさま私は前へよろめいてゆき、五、六歩歩くとその建物の玄関へ出た(8)。その低い小さな室《へや》にはランプは一つもかかっていないので、そのときは、一つの半円形の窓から射《さ》しこんでくるごくかすかな暁の光のほかには、光はぜんぜん入っていなかった。その室の閾《しきい》をまたいだとき、私は自分と同じくらいの背の高さで、自分がそのと
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