》にもやって来なかった、――そして時は刻々に過ぎてゆく。私は全身を支配している神経過敏を理性で払いのけようと努めた。自分の感じていることのまあ全部ではないとしてもその大部分は、この部屋の陰気な家具――吹きつのってくる嵐《あらし》の息吹《いぶき》に吹きあおられて、ときどき壁の上をゆらゆらと揺れ、寝台の飾りのあたりで不安そうにさらさらと音をたてている、黒ずんだぼろぼろの壁掛け――の人を迷わすような影響によるものだと無理に信じようとした。しかしその努力も無駄《むだ》だった。抑えがたい戦慄《せんりつ》がだんだん体じゅうにひろがり、とうとう心臓の上にまったくわけのわからない恐怖の夢魔が坐《すわ》った。あえぎもがきながらこれを振いおとして、枕の上に身を起し、部屋の真っ暗闇《くらやみ》のなかを熱心にじっと見つめながら、耳をそばだてると――なぜそうしたのか、本能の力がそうさせたというよりほかに理由はわからないが――嵐の絶え間に、長いあいだをおいて、どことも知れぬところから、低い、はっきりしない物音が聞えてきた。わけのわからぬ、しかも堪えがたい、はげしい恐怖の情に圧倒されて、私は急いで着物をひっかけ(も
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