を必要としない。だから私はそれについてはなにも書かないことにする。
私たちの読んだ書物――長年のあいだ、この病人の精神生活の大部分をなしていた書物――は、想像もされようが、この幻想の性質とぴったり合ったものであった。二人は一緒にグレッセの『ヴェルヴェルとシャルトルーズ』、マキアヴェエリの『ベルフェゴール』、スウェデンボルグの『天国と地獄』、ホルベルヒの『ニコラス・クリムの地下の旅』、ロバート・フラッドや、ジャン・ダンダジネエや、ド・ラ・シャンブルの『手相学』、ティークの『青き彼方《かなた》への旅』、カンパネエラの『太陽の都』というような著作を読みふけった。愛読の一巻はドミニック派の僧エイメリック・ド・ジロンヌの“Directorium Inquisitorum”の小さな八折判《オクテーヴォ》であった。またポンポニウス・メラのなかのサターやイージパンについての三、四節は、アッシャーがよく何時間も夢み心地で耽読《たんどく》していたものであった。しかし彼のいちばんの喜びは、四折判《クオートー》ゴシック字体の非常な珍本――ある忘れられた教会の祈祷書《きとうしょ》――“Vigilioe Mor
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