かり身を結びつけ、それを船尾張出部から切りはなして、水のなかへ跳びこもうと心を決めたのです。私は合図をして兄の注意をひき、側《そば》に流れてきた樽を指さし、私のしようとしていることをわからせるために自分の力でできるかぎりのことをしました。とうとう兄には私の計画がわかったものと思われました、――がほんとにわかったのか、それともわからなかったのか、兄は絶望的に首を振り、環付螺釘《リング・ボールト》につかまっている自分の位置から離れることを承知しないのです。兄の心を動かすことはできないことですし、それに危急のさいで一刻もぐずぐずしていられないので、私はつらい思いをしながら、兄を彼の運命にまかせ、船尾張出部に結びつけてあった縛索《しばりなわ》で体を樽にしっかり縛り、そのうえもう一刻もためらわずに樽とともに海のなかへ跳びこみました。
その結果はまさに私の望んでいたとおりでした。いまこの話をしているのが私自身ですし――私が無事に助かってしまった[#「しまった」に傍点]ことはご覧のとおりですし――また助かった方法ももうはやご承知で、このうえ私の言おうとすることはみんなおわかりのことでしょうから、話
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