と平常、底の底に押しこまれていた感情が一時にぱっと、上に出て来て、それに花を咲かせたようだ。
「私の家は、花巻から五里くらいもずっと山の奥ですが、A山と、B山と、C山と、三つの大きい山が周囲を取りまわしている広野です。国で一番いい時はやはり田植えごろですが。……その頃になると、私の家から、すこし隔ってB野というところに、閑古花《かっこばな》が咲くのです。それを子供たちは大騒ぎをして採りに行きますがね。」
「閑古花って何です? 彼岸花のことですか、あの赤い花の咲く。」
「いいえ、それ熊谷草、敦盛草って言いましょう、あれです。」
「ほう、そうですか、それで?」私はもうすっかり話につり込まれてしまった。
「その頃、山の麓に行っていると、夜は寝られないほど、騒がしいですよ。いろんな鳥が一時に鳴き出すもので……それに私の国では昼間鳴く鳥は少ないのですから。時鳥《ほととぎす》だとか、閑古鳥《かっこう》だとか、それからまだいろいろあります。」
「そのB野に、朝早く行くと、それはずっと夏になってですが、あさどり[#「あさどり」に傍点]って言うのがあります。山の神様のお使いだとか言って、それを殺すと崇《
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