ずから感に通じるところがある。……私は妙な機会から、妙な人に逢ったもんだと思った。
そこへお八重が、菓子を持ってきたが、二人のあいだにそれを置くと、不思議そうな顔をして、ちょっと私達の顔を見て、このおしゃべりが、いつになく何にも言わずに出て行った。
「さ、いかがです。これでも此家《ここ》の例のビスケットではないから大丈夫です。食べて下さい。そしてお国の話でも聞かして下さいな。……だが、何か僕に用がおありだったのですか。それなら、その方から……」
私はまだその用が気になっているので、こう言うと、荻原は少しあわてて、きまりの悪そうに顔を赤くした。そして何にも言わない。……また手持ち無沙汰になりそうだから、私もあわてて、
「それで、何ですか、林や森の感じなども、変ってるでしょうね。」と話をまたその方に持って行く。すると荻原は遠慮した顔をしながらも、気が乗って来て、
「胡桃林《くるみばやし》が多いのです。もすこしして、十月の中ごろになって林の中にいると、胡桃の果が枯れ草の上に、ぼたり、ぼたりと落ちるのが、実に淋しい音です。」
「私なんぞは、胡桃の林なんて見た事もありませんよ。……それはそう
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