ってくるのを、荻原が送ると言うので、江戸川までくると、夜更けて、花の陰に店を出している、大道易者がいたのを、冷やかす気で、見て貰うと、易者は何と思ったのか、荻原の顔を見て、
「あなたには女難がある」と言った。すると荻原はぐっと胸をつかれたと見えて、殆んど狂気《きちがい》のように、その易者に、
「ほんとですか、それはほんとですか。」
と哀願するように言う。私は驚いて、ぐいぐい引き立てて来たが、荻原はもう気がくたくたになっていて、泣き出しそうな声で、私をつかまえて、すっかり自分のことを話してしまった。
荻原は意外にも絶えず女に関係していた。少し前に見た、幻覚もそのため。……荻原は私を送ると言って私の家にくるまで、いくつも相手のちがっている、その恋の物語をした。そしてその晩は泊って行った。
そのうちに彼はふと、自分の室にいると、まざまざ知らぬ男の顔を見ると言って、それにひどくなやまされていたが、急に激しい心臓病にかかって、国に帰ってしまった。
国に帰ってからは、ただ煩悶々々と、当てのわからない、苦痛を訴えた手紙を繁々とよこしている。
底本:「遠野へ」葉舟会
1987(昭和
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