と変な事を聞くようですがね、お国の方では迷信がひどくはありませんか。お怪談《ばけばなし》なんぞが……前に僕は誰れかに聞いたっけ、そんな話は寒い国ほど盛んだって。」私もつい話にうかされて来る。
「盛んです。そんな話ばかりですよ。」 私が菓子を一つ摘《つま》んで食べると、荻原も心置きなく手を出して、一つ摘んだ。だんだん熱して来て、目に見えるほど、様子が変わった。
「やっぱり、陰鬱なせいかしら。」
「どうですか。国ではまだ巫女《みこ》だとか、変んな魔法を使うと言う女などがたくさんいましてね。」荻原は一直線に話を進めようとする。
「魔法?……何です、それは。」
「何ですかね、蛇だとか、いろいろな毒虫を見ると、何か呪文《おまじない》のような事を言って、すぐそれを殺してしまうのです。私の祖母《おばあ》さんもやりますよ。」
「不思議ですね、それをするのは女だけですか?」
「ええ女だけです。それも、その家の系統があるのです。」
「若い女でもやるんですか?」
「やっぱり老人《としより》の方です。」
 荻原は初めのおどおどしていた風がすっかり消えてしまった。ひとりで興に乗って来て話しつづける。その顔を見ると平常、底の底に押しこまれていた感情が一時にぱっと、上に出て来て、それに花を咲かせたようだ。
「私の家は、花巻から五里くらいもずっと山の奥ですが、A山と、B山と、C山と、三つの大きい山が周囲を取りまわしている広野です。国で一番いい時はやはり田植えごろですが。……その頃になると、私の家から、すこし隔ってB野というところに、閑古花《かっこばな》が咲くのです。それを子供たちは大騒ぎをして採りに行きますがね。」
「閑古花って何です? 彼岸花のことですか、あの赤い花の咲く。」
「いいえ、それ熊谷草、敦盛草って言いましょう、あれです。」
「ほう、そうですか、それで?」私はもうすっかり話につり込まれてしまった。
「その頃、山の麓に行っていると、夜は寝られないほど、騒がしいですよ。いろんな鳥が一時に鳴き出すもので……それに私の国では昼間鳴く鳥は少ないのですから。時鳥《ほととぎす》だとか、閑古鳥《かっこう》だとか、それからまだいろいろあります。」
「そのB野に、朝早く行くと、それはずっと夏になってですが、あさどり[#「あさどり」に傍点]って言うのがあります。山の神様のお使いだとか言って、それを殺すと崇《
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