輝やいて見える。
 この室は自分にとっては、重くるしく感じられてたまらぬ。日のうちには終始頭の上を押えられているようだ。送られた雑誌を次第々々に読んで見た。文壇の騒がしい声が、遠くの方でするような気がする。そして、存外自分の胸まで響いてこぬ。
 と、思われたが、自分はただ、炬燵の中に足を入れて、寝たままぼんやりしていたい。S君と話すのもいやだ。昨日も三日こうして暮してしまったのだ。今日もこんな心持ちでいるうちに夜になってしまった。
 ふと、時を見ようと思って、机の上に置いた時計を取ると、巻くのを忘れていたので、すっかり止まっている。
 花巻で汽車から降りた時に、田舎に入るからと思って殊更らに時を合わせて来たのに、つい止めてしまった。それででたらめの時にした。
 夜が更けて行くが、はたして何時《なんどき》か分からぬ。
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土淵村は、陸中国上閉伊郡にある。自分はこんど東北地方を旅行しているうち、ここに約二十日間滞在していた。この日記はそのうちより抄したものである。ついでに、自分の居たところは土淵村でもずっと奥の(東に入った方の)字山口というところであった。
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底本:「遠野へ」葉舟会
   1987(昭和62)年4月25日発行
入力:林 幸雄
校正:今井忠夫
2004年2月19日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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