そうな顔をして、じっと見ている。思いがけないような、物珍らしそうな、恐れているような、目だ。……そして目でじっと見ながら何か小声で話している。
室は板敷の上に筵《むしろ》が敷いてある。正面の舞台には毒々しい更紗《さらさ》模様《もよう》の幕が下りている。
自分達ははいると、雪でぬれた足袋や、靴下をぬいでいると、前の方に火鉢を取り廻わしていた女達が火鉢の傍《わき》を退《の》いて、S君に座をすすめた。そこに女達の中に交って座を占めた。
九時近くなる頃まで、舞台の幕は下りたままだった。自分はひそかに退屈してしまった。
そのうちに見物が次第に一杯になって来た。牛のような頑丈なからだをした男達がうしろの方にずっと並んだ。
長々と、今夜の人形、新しく改良したものであると言う前口上があって、やがて幕が明いた。人形はやはり古く汚れている。土の上に塗った胡粉《ごふん》の色が冷く白い。それに死んだ人のような指をした人形が目を一つところに据えて踊り出した。自分はこれが子供の時から恐ろしく思われるものの一つだ。久しぶりでまたそれを見たのだ。
それで、目をそらして見物の方を見ると、傍にいる女達が小さな可愛いい目を見はって、一心に舞台に見入っている。うしろの方からも折々「今度のは余程うまい」と言うような賞讃の辞が聞こえる。
やがて、一幕すんだ。方々で話がはじまる。女達は目をキョロキョロさせて、四辺《あたり》を見廻わしている。この女も同じように、綺麗な鳥のような目をしている。色の黒い、垢のついた、しかし、肉付きのいい、まるみのある顔をして、その鳥のような目でキョロキョロしながら、女らしい透る可愛いい声で物を言うのを見ていると、自分はこの田舎の女が、家に飼われている、猫か鳩かのように思われた。
どんなにか、弄《おもちゃ》にして、可愛がって見たらば面白かろうかと思った。それに連れて、或る時に読んだ文明人が野蛮人の女を、野獣をおもちゃにするようにして、可愛がっている話を思い浮かべた。
二幕目がすんだ時に帰って来た。もう夜がかなり更けていた。自分は今夜、村の人の集まっているところに一緒になって坐っていたのが、非常に物珍らしく思った。
三
雪があがるかと思うとすぐ降ってくる。一雪降ると、六角牛《ろっこし》の峰にはほかの山よりも、一層深く積る。やがて空が晴れる。と、それが日に
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