月夜峠
水野葉舟
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)遠野《とおの》
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これも同じく遠野《とおの》で聞いた談《はなし》だ。その近傍《きんぼう》の或《ある》海岸の村に住んでいる二人の漁夫《ぎょふ》が、或《ある》月夜に、近くの峠を越して、深い林の中を、二人談《はな》しながら、魚類の沢山入っている籠を肩にして、家の方へ帰って来ると、その途中で、ひょっこりとその一人の男の女房に出会った。その夫は女房に向って、「お前は、今頃何処《どこ》へ行くのだ」と訊《たず》ねると、女房は、「急に用事が出来たから、△村まで行って来ます」と答えたが、傍《そば》で同伴《つれ》の男が、見詰《みつめ》ていると、女はそういいながら、眼を異様に光らして、籠のあたりを、鼻先をぴくぴくさしている模様が、如何《いか》にも怪しいので、これはてっきり魔物だと悟ったから、突然その男は懐中にしていた、漁用の刃物を閃《ひらめか》すが早いか、女に躍懸《おどりかか》って、その胸の辺《あたり》を、一突《ひとつき》強く貫《つ》くと、女はキャッと一声《いっせい》叫ぶと、その儘《まま》何処《どこ》とも知らず駈出《か
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