家の内にいると、心はしだいに重く、だるくなってしまった。
凍って青く光っている、広い野の雪の色も、空気が透明で、氷を透して来たような光を帯びた碧空《あおぞら》に、日が沈んで行く。黄昏《たそがれ》の空にも、その夕星《ゆうずつ》の光にも、幾日も経たないうちに、馴れてしまった。仮りに死んでいるような、自然の姿の単調さに心が倦んで行く。すると、鈍色をした、静まり返った自分の周囲の光景が、かえって心をいらだたせるのであった。
私は何よりもまず、賑やかな東京の夜が恋しく思われてくる。
S君も――これは私の東京での友人で、この村の人だが――、この人は私よりも強く東京が恋しくなっていた。
S君は毎年冬と夏とは家事の監督や、仕切りをするために、東京から帰ってくる、この村の地主の一人だ。東京ではのどかに書籍の中に没頭して暮している。それに年もまだ若いのだし、郷里《くに》に帰って来ても、いつも用事がすむと、すぐに東京に帰って来てしまうのだが、私が来ると言うので、暮れから三月になるまで、この雪の中で辛抱して、待っていた。……だからその飽き方もひどい。
私の顔が何か新しいものでも持って来たと見えて、
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