いかけた。
 私達は二階に通された。おなじ馬車に乗って来たのだと言うためか、私達の四人は一つ室で食事をした。
 私はからだが非常に疲れているので、食事にはただ卵をと注文した。すると、ほかの三人は不思議そうな顔をして私を見た。
 ここはもう花巻から七里ばかり離れている。この半日以上同じ馬車に乗っていて、私は誰ともろくに話さなかった。二|言《こと》三|言《こと》老人にものを聞いただけであった。どの人の顔も他人らしい表情をして私を見た。

     三

 雪の盛んに降る中に宮守《みやもり》を発った。これから遠野まで五里半ある。
 一緒に食事をしたので幾分か心が解け合ったのか、さあ出発と言う時には、互いに賑かに誘いあった。そとはもうすっかりと黄昏《たそが》れたようになっていた。私は馬車に乗って座を占めながら、寒さのほかに、広野の中で行き暮らしたような心細さが、ひしひしと心を襲った。ここからは私達の車の方に遠野の中学の生徒だと言う学生服を着た青年が一人乗った。
 こんどは私達の馬車が先きに立った。雪はしとしと降ってくる。宮守をはずれたところでそっと垂幕《たれまく》を上げて見ると、目に見える限り
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