うことを考えると、体じゅうの神経がみなうち震えた。この神経をうち震えさせ――体をちぢませるものは希望[#「希望」に傍点]であった。宗教裁判所の牢獄のなかであってさえ死刑囚の耳にささやくものは希望[#「希望」に傍点]――拷問台の上にあってさえ喜びいさむ希望――であった。
 もう十回か十二回振動すれば鋼鉄の刃が私の外衣にほんとうに触れるということがわかった。――そしてそれがわかると、ふいに、私の心には鋭い落ちついた絶望の静けさがやってきた。この幾時間ものあいだ――あるいはおそらく幾日ものあいだ――いま初めて私は考えた[#「考えた」に傍点]。すると、自分を巻いている革紐つまり上腹帯は一本だけ[#「一本だけ」に傍点]だということが思いついた。私は何本もの紐で縛られているのではなかった。剃刀のような偃月刀の最初の一撃が紐のどの部分をよぎっても、その紐が切りはなされて、左手を使って体から解きはなすことができるにちがいない。だが、その場合には鋼鉄の刃のすぐ近くにあることがどんなに恐ろしいことだろう! ほんのちょっとでももがいたらどんなに危ないことになるだろう! そのうえに拷問吏の手下どもが、こんなこ
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