邇ゥ分で羂《わな》に掛かつたやうなもので、もう掴まへられさうだと思つたからである。なぜ気に掛かるやうに思つたかと云ふに、あの窓の中で何か悪い事をしでかすかも知れぬと思つたからである。その気に掛かるところから、水夫は決心して猩々の跡から附いて登つて、窓を覗いて見ようとした。水夫の事だから、棒に攀ぢ登るのは造作もなかつた。併し窓の高さまで登つて見ると、それから先へは往かれなかつた。窓は左手にあつて、大ぶ離れてゐる。体を曲げて覗いて見なくては、室内が見えない。やつと覗いて見た時、水夫はびつくりして、今少しで手を放して落ちるところであつた。この時救を求める恐しい声が、病院横町の人の眠を破つたのである。レスパネエ夫人と娘とは寝衣《ねまき》一つになつて、例の鉄の金庫を室の真ん中に引き出して、その中の書類か何かを整理してゐたらしい。金庫は開けてあつて、中の物が床の上に出してあつた。多分二人の女は窓の方を背にして坐つてゐたのだらう。なぜと云ふに、猩々の飛び込んだ時から、叫声のした時まで大ぶ暇があるからである。二人はその間気が付かずにゐたものと見える。窓の外の戸を撥ね返した音は聞えた筈だが、親子は風にあ
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