諱B我々は君をどうもしようと思つてゐるのではない。フランスの一男子として君に誓つても好い。僕だつてあの病院横町の犯罪が君の責任だとは思つてゐない。併し君があの事件に関係してゐると云ふことだけは分かつてゐるのだ。僕の広告を見ても分かるだらうが、僕がどれだけの事を知つてゐて、又これから先探らうと思へばどれだけの事を探る手段を持つてゐると云ふ想像は君にも付くだらう。まあ、砕いて話せばかうだね。君は何も悪い事をしたのではない。又させたのでもない。君はあの場合に物を取らうと思へば取られたのだが、それを取らなかつた。だから何も君が隠し立てをする必要がない。併し君の知つてゐるだけの事は言はないではならないのだ。あの事件の為めに無実の罪を蒙つて牢屋に這入つてゐる人があるのだからね。」
 ドユパンがこれだけの事を言つてゐるうちに、水夫は余程気色を恢復したが、この室に這入つて来た時の勇気はもう無かつた。水夫は暫くして云つた。
「いや。わたしの知つてゐるだけの事は話しませう。併しあなたがそれを半分でも本当だと思つて下されば結構なのです。わたし自分でさへ※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]のやう
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