てあるキヤベツの頭が、皆腹を立てたやうに真つ赤になつた。それから矢張外道奴の所作と見えて、家々の道具に為込んである時計や置時計が魔法で踊らせるやうに踊り出した。炉の上の棚にある時計も腹が立つて溜まらないと云ふ様子で、十三時を繰り返し繰り返し打ちながら、下振《さげふ》りをめちやめちやに振り廻した。それから猫や豚が、尻つぽに括り付けてある時計の十三時を打つのが不都合だと心得たものか皆駆け出して、きいきい、にやあにやあ啼きながら、そこら中を引つ掻いて、何もかも蹴飛ばして、人の顔に飛び付いたり、着物の裾にこんがらかつたりした。なんともかとも云はれない大騒乱である。
 それに塔の上にゐるいたづら者奴は却つてわざと此騒乱を大きくしようとしてゐるらしい。折々煙草の煙の隙間から仰向いて見ると、いたづら者は番人を仰向けに寝させて、その上に乗つて、大時計の上に吊つてある吊鐘の綱を口に銜へて、頭を右左に振りながら鐘を鳴らしてゐる。あの時の事を思ひ出すと、己は今でも耳が鳴る。いたづら者奴、鐘が鳴るばかりでは足りないと見えて、膝の上に大きなヰオリンを置いて、間拍子に構はず、「ねえ、テレザさん、降りてお出で」と云
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