ば、実に立派な[#「立派な」に傍点]頭蓋骨だと言ってもいいね。――そして君の甲虫というのが、もしこれに似てるのなら、それこそ珍無類の甲虫にちがいない。そうだな、この暗示《ヒント》でぞっとするような迷信が一つこさえられるぜ。きっと君はその虫を 〔scaraboe&us caput hominis〕(人頭甲虫)とか、何かそういったような名をつけるだろうね。――博物学にはそういうような名前がたくさんあるからね。ところで、君の話したあの触角というのはどこにあるんだい?」
「触角!」とルグランが言った。彼はこの話題に奇妙に熱中しているようだった。「触角は君には見えるはずだと思うんだが。僕は、実物の虫についているとおりにはっきりと描いたんだし、それで十分だと思うんだがな」
「うん、そうかねえ」と私は言った。「きっと君は描いておいたんだろう、――でもやっぱり僕には見えない」そして、私は彼の機嫌《きげん》を損じないようにと、それ以上なにも言わないで、その紙を彼に渡した。が、私は形勢が一変してしまったのにはすっかり驚いた。彼の不機嫌には私も面くらったし、――それに、甲虫の図はと言えば、ほんとうに触角など
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