tにも、他のすべての彼の癖と同様に、私はいつの間にか陥って、まったく投げやりに彼の気違いじみた気まぐれに身をまかせてしまった。漆黒の夜の女神はいつも我々と一緒に住んでいるというわけにはいかない。が、我々は彼女を模造することはできる。ほのぼのと夜が明けかかると、我々はその古い建物の重々しい鎧戸《よろいど》をみんなしめてしまい、強い香りの入った、無気味にほんのかすかな光を放つだけの蝋燭《ろうそく》を二本だけともす。その光で二人は読んだり、書いたり、話したりして――夢想にふけり、時計がほんとうの暗黒の来たことを知らせるまでそうしている。それから一緒に街へ出かけ、昼間の話を続けたり、夜更けるまで遠く歩きまわったりして、にぎやかな都会の奇《く》しき光と影とのあいだに、静かな観察が与えてくれる、無限の精神的興奮を求めるのであった。
 そうしたときに私は、デュパンの特殊な分析的能力を認めたり、感嘆したりせずにはいられなかった(彼の豊富な想像力から十分に期待していたことだが)。彼はまた、その能力を働かせることを――なにもそれを見せびらかすことではないとしても――たいそう喜ぶらしく、またそのことから生ず
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