う。この怪事件は解決が容易だと思われるのだが、そう思われる理由のために――つまり、その外観が異様な性質なので――かえって不可解だと考えられている、と僕には思われるのだ。警察は、動機がわからないために――殺人そのものよりも、殺人があまりに凶暴なために当惑している。また、彼らは、あの争っているように聞えた声と、階上には殺されたレスパネエ嬢のほかに誰も見あたらず、また階段をのぼってゆく一行の者に気づかれないで逃げる手段がないという事実との、辻褄《つじつま》を合わせることができないことでも途方に暮れている。部屋がひどく乱雑になっていたこと、死体が頭を下にして煙突のなかに突き上げてあったこと、老夫人の体がむごたらしく切りさいなまれていたこと、などの事実や、さっき言ったこと、それから僕がわざわざ言うまでもない他の事実などは、警察ご自慢の明敏さを完全に参らせてしまって、力をすっかり麻痺《まひ》させてしまったのだね。彼らは、異常なことと難解なこととを混同するという、あの大きな、しかしよくある誤ちに陥っているんだ。だが、かりに理性が真相を探してゆくとすれは、ありきたりの面から離れている点こそ問題なんだよ
前へ 次へ
全73ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ポー エドガー・アラン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング