物を取りに行ったり持って行ったりするときに、その家で誰にも逢ったことがない。たしかに召使は一人も使っていなかった。その建物には四階のほかにはどこにも家具がないようであった。
 煙草商、ピエール・モローの証言。いままで四年間、レスパネエ夫人に少量の煙草および嗅煙草《かぎたばこ》を売っていた。その付近で生れ、ずっとそこに住んでいる。夫人と娘とは、その死体の見出された家に六年以上住んでいた。もとは宝石商が住んでいて、上のほうの部屋をいろいろな人々に又貸ししていた。家はレスパネエ夫人の所有であった。彼女は借家の又貸しを嫌って、自らそこへ引き移り、どの部屋も貸さないことにした。老婦人は子供っぽかった。証人は六年間に娘を五、六回ほど見たことがあった。二人はいたって隠遁《いんとん》的な生活をしていて、――金を持っているという噂だった。近所の人たちの話ではレスパネエ夫人は占いをしているということだった。ほんとうだとは思わぬ。老婦人と娘、荷物運搬人が一、二回、医者が約八、九回のほかには、その家の内へ入ってゆく者を見たことがなかった。
 近所の多くの人々も同様な意味の証言をなした。この家へしばしば出入り
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