フ建物の裏にある石敷きの小さな中庭へ出ると、そこに老婦人の死体が横たわっており、その咽喉が完全に切られていたので、体を起そうとすると頭部が落ちてしまった。頭も胴もおそろしく切りさいなまれ、――胴のほうはほとんど人間のものとは見えないくらいであった。
この恐るべき怪事件には、いまのところ、まだ少しの手がかりもないようである」
翌日の新聞は、さらに、次のような詳報を付け加えた。
「モルグ街の惨劇。この最も奇怪な恐ろしい事件〔フランスでは『事件《アフエール》』という言葉はまだ我我の感ずるような軽々しい意味を持っていない〕に関しては多くの人々が取り調べられた。しかし、本件に光明を与えるようなことは、まだなに一つあらわれてこない。以下、陳述された重要な証言をすべて掲げることにする。
洗濯女、ポーリン・デュプールの証言。過去三年間、洗濯の御用を聞いていたので、被害者両人を知っていた。老婦人と娘との仲はよく、――互いに深く愛し合っていた。代金は滞りなく払ってくれた。二人の暮し方や暮し向きについては知らぬ。レスパネエ夫人は占いを業としていたと思う。金を貯《た》めているという噂《うわさ》だった。洗
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