楢の木の殺《ソ》ぎ口を丁字形に切りこんで羊歯《シダ》の葉を挿し、田端の畦《ウネ》に立てられる紀伊熊野川沿岸の正月の立て物(名知らず)がある。古今集の歌は、かうした榑《クレ》や丸太に削り花の挿された物に、興味を持つて作つた籠題《コメダイ》だつたのであらう。
亀井戸の鷽替《ウソカ》への鷽は、形の上からすぐさま合点の行く様に、神前に供へられた削り掛けの依代を、奪ひ合ふ年占《トシウラ》の一種なのである。
桃の節供の雛壇のあたりに飾る因幡の餅花を見ても、儀式の依代であつたことは信じ易いであらう。自体、祈年祭りを二月四日に限るものゝ様に考へるのは、国学者一流の事大党ばかりの事で、農村では田畑の行事を始める小正月に取越して置くのが多く、又必しも正月十五日に限らず、大晦日・節分などを境目としてするものらしい。祇園の社頭ににう木[#「にう木」に傍線]に似た削り掛けを立てるのは、大晦日の夜から元朝へかけての神事ではないか。一体大晦日と十四日年越しと節分とは、半月内外の遅速があるだけで、考へ方によつては一つ物と思はれる。年占・祈年・左義長・鳥追ひ・道祖神祭・厄落しは、何《ド》の日に行うてもよいわけである。
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