軽には決し兼ねるが、二者の形似は確かに認めねばならぬ。唯目籠の単純なるに比して、梵天には更に御幣の要素をも具へて居るのである。京阪では張籠《ハリコ》のことをぼて[#「ぼて」に傍線]と謂ふ。此はぼて/″\と音がするからぼて[#「ぼて」に傍線]と謂ふのか、と子供の時は考へてゐたが、此もどうやら梵天と関係がありさうだ。
我々上方育ちの者には、梵天と謂へば直ちに芝居の櫓などに立てた、床屋の耳掃除に似た頭の円く切り揃へられた物を聯想するが、関東・北国等の羽黒信仰の盛んな地方では必しも然らず、ぼんてん[#「ぼんてん」に傍線]即幣束の意に解して居り、其形状も愈削り掛け又はいなう[#「いなう」に傍線]の進化したものゝ様に見えて参る。香取氏の梵天塚の話(郷土研究二の五)などを見ても、梵天・幣束・招代の三者の関係は直観し得るのである。
梵天に就ては後に今一度言ふべき折があるが、茲には唯張籠と梵天との語原的説明を介して、髯籠と梵天との関係を申した迄である。ぼて[#「ぼて」に傍線]と言ふ籠の名が擬声語でないことは他にも証拠がある。肥え太つた女などの白く塗り立てたのを白ぼて[#「白ぼて」に傍線]などゝ言ふが、此
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