見で(勢語)
津の国の浦のはつ島はつかにも見なくに人の恋しきやなぞ(雅成親王、玉葉)
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いづれも景を叙するのは、ある語を喚び起す為の用意なので、短くて用を達するのもあるが、大抵長くなる様である。
叙景によつて与へられた印象が、しつくりと実質的内容にあてはまるものでなくてはならぬ。あてはまるといふのは、必しも関係のある事実を述ぶる必要はない。唯その形体的内容の聯想が、実質的内容と、傾向を一にして居ればよいのである。此には屡失敗したものがあるが、左のものゝ如きは成功して居る。
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(ロ)ますらをがさつ矢たばさみたち向ひ射るまとかたは見るにさやけし(万葉)
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よひにあひてあしたおもなみなばりにかけながき妹がいほりせりけむ(同)
あしびきの山どりの尾のしだり尾のなが/\し夜をひとりかもねむ(同、作者未詳)
たちのしり鞘にいり野に葛ひく我妹ま袖もて着せてむとかも夏葛ひくも(万葉)
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叙事的表現といふのも、畢竟、此うちにこめて説く事が出来ようと思ふ。ある観念、又はある思想を喚び起す為に、他
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