がある。魂祭りは、死んだ近い親族が帰つて来るから魂祭りであると言ふが、此だけでは、近頃の考へである。以前は、其帰つて来る魂の中に、悪い魂も混つて戻つて来ることを考へて居た。其為に、悪霊を退ける必要があつたのだ。此悪霊退散の為の踊りが、念仏踊りである。春の終り、夏に先だつて流行する疫病を予防する為の踊りであつたが、其元は、稲虫を払ふ踊りである。
日本人はすべて物を並行的に考へるのが例で、田に稲虫が出ると、人間にも疫病が流行すると考へて居た。此踊りのもとは、平安朝になつて、俄然発達して来た鎮花祭から起つてゐる。花が散る頃には、悪疫が流行するから、花鎮めの祭りをすると言ふのは、平安以後の考へで、もとは、花を散らせまいとする、花の散る事を忘れさせる為の踊りであつた。此が平安朝になると、疫病退散の為の踊りになつた。
日本の踊りは宗教を生み出す源となる事があるが、念仏宗も鎮花祭の踊りから発達して来て居るのだ。鎮花祭の踊りをする中に、其興奮から、一種の宗教的自覚をおこして、念仏宗が出で、其径路に当つて、念仏踊りが現れたのであつた。
念仏踊りは、此様に、段々意味が変つて来て居るが、根本には、魂に係る祭
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