と――それらは源之助自身が持っていた外的な天分が豊富でありすぎたために、彼自身もそれに頼りすぎて真剣な勉強をしなかったことによるものであって、そこに彼の最大の欠陥があったようである。
晩年の源之助が不遇であったのは、今述べたような彼の欠陥が禍《わざわい》したのだと思う。勿論彼も随分借金に苦しめられたことだから、そのために苦しまぎれに小さな芝居小屋に出ることになったわけだが、もうどうしても大芝居に根をおろさなければならない頃になっても、歌舞伎座に帰れず、浅草あたりにいつまでも流離しなければならなかったのである。源之助は上達して名人になるためには、煩いになるようなものを余りに沢山持ちすぎていたのであった。今日になって源之助という役者を考えてみると、成程源之助は名人にはならなかっただろう。だが、あれだけの印象を我々に残している人であってみれば、唯の人物ではあるまいと思われるのである。結局、源之助のもので一番残って行くものは、吉原その他の色街の太夫・遊女であったろうと思う。だが、其が彼の素質的なものかどうかは断言出来ぬのである。でも源之助の遊女の定評になった頃には、もう彼がすがれた頃だった。

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