戯曲上の類型であり、説経|浄瑠璃《じょうるり》にもあるもので、これは変えられない。それでそういうものが繰り返されているうちに或特別な女の性根が出来る。それがまあ「女武道」になるのである。私は源之助は一番「女武道」にかなった役者であると思う。例えば「ひらがな盛衰記」のお筆のような役は割にしどころの少い役で、十分発揮出来ない憾《うら》みはあったにしても、源之助にうってつけのものだと思う。
「女武道」は正義で、又時としては武芸に達し、容貌もいい中年の女という立女形の役である。女形が勢力を持って来て、芝居の中心になって、主役をしなければならなくなった場合、「女武道」の必要が起って来るのである。又昔の芝居は仮りに午前に時代物をかけたとしたら、午後は世話物をするという風だから、時代物が武道なら、世話物の方でも武道を出したいという要望が起って来る。こうして世話物の「女武道」としての「毒婦・悪婆」というものが出来て来る。
芝居の正義というのは道徳的な本道の正義でなくともよいので、何にしても鬱積《うっせき》した気持ちを打ち払う様な華々しいものが、正義になるのである。今までおとなしい一方のものにきめられて
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