しはあまり多くの人の歌を讀み過ぎました。他人の歌に淫し過ぎました。爲に、世間の美學者や、文學史家や、歌人などの漠然と考へてゐる短歌の本質と、大分懸けはなれた本質を握つてゐます。其爲に、りくつ[#「りくつ」に傍点]としては、「たをやめぶり」も却けることが出來ませぬ。しかし一箇の情からすれば、斷乎として撥ね反します。けれども其處に、あなた方程の純粹を誇ることの出來ぬ濁りが出て來ました。
今度の歌にも、「たをやめぶり」に對する理會が、誘惑となつて働きかけてゐるのを明らかに見ることが出來ます。此は都人であり、短歌に於けるでかだんす[#「でかだんす」に傍線]としてのわたしに當然起り相な事です。併し恥づべきことであります。わたしの本然の好みに遠ざかり、又、力の洗禮を以て淨化することがなし遂げられてゐませんから。つまりは、自分自身の嗜きの本道をあるいてゐないかも知れぬといふ、自ら顧みての恥ぢなのです。
けれども安心して頂きませう。わたしは、其「たをやめぶり」をもますらを[#「ますらを」に傍点]の力に淨化する日が、來るに違ひないと信じてゐます。
底本:「折口信夫全集 第廿七卷」中央公論社
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