へば、或は不遜に聞えるかも知れません。此から暫らく、書き連ねる問題は、わたしとあなたとの質に於ける相違を申したい、と思ふのです。くどい樣ではあるが、この點の考察を怠つては、總ての議論は空になります。
あなた方は力の藝術家として、田舍に育たれた事が非常な祝福だ、といはねばなりません。この點に於てはわたしは非常に不幸です。輕く脆く動き易い都人は、第一歩に於て既に呪はれてゐるのです。わたしどもと同じ仲間に引いて來るのは、無禮なことでありますが、或點に於て、岡さんも呪はれた一人といふことが出來ます。都會人が藝術の堂に至るのと、金持ちの天國に生れるのとは、或は同じ程な難事であるかも知れません。
併し、此邊の苦勞は、もとより覺悟の上でかゝつてゐるのです。田舍人の見る處と、都會人の見る處とは、自ら違うたものがあるので、難道と易道、といへば、語弊がありませう。たゞ、境遇の善惡は確かに見る事が出來ます。田舍人が肥沃な土の上に落ちた種子とすれば、都會人はそれが石原に蒔かれたも同然です。殊に古今以後の歌が、純都會風になつたのに對して、萬葉は家持期のものですらも、確かに、野の聲らしい叫びを持つてゐます。その萬
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