、なま/\しい對象を掴んで來ることも、其表現の如何によつては、否認はなされぬでせう。若し反對とすれば、問題は岐れて、「短歌の本質」といふ方向へ向ひます。わたしは要するに、對象よりも心に在るのだ、と思ひます。純化というても、語弊はありますが、ともかく雜駁性を整理する氣魄[#「雜駁性を整理する氣魄」に傍点]如何に因ることだと思ひます。大分がさつ[#「がさつ」に傍点]な傾きは在つたとは言へ、啄木は短歌の本質上の限界を乘り超えて、「才の奇蹟」を見せたではありませんか。此點、あなたにかれこれ言ふのは、「我は顏」を恥しく思ひます。
先祖・家門・財産などいふ問題に對して、あれだけ苦痛を經驗して來られた岡さんの歌には、子規居士・左千夫先生等になかつた發見が光つてゐます。きつと、岡さんのこれからの歌は、アララギの歴史上に特筆せられる一分野を開いて來られるでせう。所謂苦勞人のない歌壇には、岡さんに創まる一運動を阻拒する權利を有つた一人の歌人もない筈です。
赤彦さんは、あなたと比べると、著しく智慧の點に於ては、都人的であると思ひます。此は尠くもあなたゞけには、迢空は善く考へた、と納得して貰へることゝ思ひます。千樫さんになると、情調に於て都人的要素が多くありすぎる程です。
恐らくアララギ同人中で、憲吉さん程純粹ですなほ[#「すなほ」に傍点]な心を持ち續けて居る人はないでせう。都會の誘惑には勝たれ相もなくて、而も立派に跳ねかへす先天的の強い郷土性をも兼ね具へてゐられました。あなたは、其から見れば極めて堅固な田舍びとであります。淨瑠璃よりも浪花節を愛せられるのも、あの聲の野性を好まれたのでせう。わたしはあなたの都會の歌を讀むと、憲吉さんのに對して、反撥不退轉といふ風な語が、心に浮んで來ます。
都會・田舍に就て、一言も發せられなかつたあなたの語に對して、なぜこんな事を言ひ出したかは、尠くともあなたには訣つてゐることゝ思ひます。質に於て呪はれてゐる都會人なるわたしが、力の藝術運動に參加してゐる爲に、あなた方の思ひもよられぬ苦惱を發想の上に積んでゐるといふことを知つて貰ひ、同時に今すこし長い目で、眞の意味の萬葉調、嚴正なるますらをぶりの力を、完全に生み出す迄の、此陣痛の醜いのたうち※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]る容子を見て頂きたい、と思ふからです。陣痛期間の見苦しさに驚いて逃げ出した我々
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