ても、変らず見えてゐる。相聞は殊にさうだし、挽歌その他のものにも通じてゐる気分である。
物語歌に見えた真間のてこな[#「てこな」に傍線]・蘆《ノ》屋の海辺村《ウナヒ》処女其他は、前代以来の伝説上の人で、あの種の巫女の人の妻となる事を避けた信仰の印象であつた。村家の娘を訪れる新嘗の夜の情人を仮想した二首の東歌などもある。成女戒を受けた村女の、祭の夜に神を待つた習俗の民謡化したものだ。此夜の客が、神であつて所謂|一夜夫《ヒトヨヅマ》なるものであつた。歌垣・※[#「女+櫂のつくり」、第3水準1−15−93]歌会《カヾヒ》・新室の寿《ホカヒ》の唱和は、民間の歌謡の発達の常なる動力であつた。元は、男方は神として仮装し来り、女方は精霊の代表たる巫女の資格において、これに対抗し、これを迎へ、これに従うたのである。此が相聞歌の起りである事は述べた。
此かけあひ[#「かけあひ」に傍線]行事に、謡ひ勝たう、負かされじとする処から、「女歌」はとりわけ民間に伸びた。神と巫女との対立の本意を忘れた地方も、万葉人以前からあつた。かうした間に、類型が類型のまゝに次第に個性味を帯びて来た。又一方唱和問答の機智的技巧は
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