酬いを受けて行く宿命、――此が本格的な小説のてま[#「てま」に傍線]として用ゐられると言ふことは當然ではないか。之を咎めて、作品の價値までも沒却しようとした時代があつたのである。たとへば今一方、其境遇が、最貴い家庭に置かれてゐる點がわるいのだ、と言ふ説があるとする。それなら、愈、わるい考へ方である。さう言ふ貴い人々の間に處つて、苦惱の生涯を貫いた人を書いたればこそ、この書の特殊な價値は、益高く見える訣ではないか。
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いにしへの 生き苦しみし人びとの ひと代《ヨ》を見るも、虚しきごとし

くるしみて この世をはりしひと人の物語せむ。さびしと思ふな
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底本:「折口信夫全集 廿七卷」
   1968(昭和43)年1月25日発行
初出:「生活文化 第七巻第十號」
   1946年(昭和21年)11月
※底本の題名の下に書かれている「昭和二十一年十一月「生活文化」第七卷第十號」はファイル末の「初出」欄に移しました。
入力:高柳典子
校正:多羅尾伴内
2003年12月27日作成
青空文庫作成ファイル:
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