する言ひ方とは違つてゐる。「この通りだらう」と言ふ程の義である。
三
――言へばえに
[#ここから2字下げ]
言へばえに、言はねば胸のさわがれて、心ひとつになげくころかな
[#ここで字下げ終わり]
伊勢物語に残つた歌であるが、語の格から言へば、その時代のものと考へられて居るよりも、更に可なり古い形を含んでゐるものと思ふ。「言へば」と「言はねば」と、二つ対立せしめて居るので、時としては、「言はゞ」「言はず――言はざらば」の対照に作つても、同じ事である。「えに」は、下に稍詳しく、「言はねば胸のさわがれて」とあるべきことを予期する点から、其意義を気分化して、理会せしめようとしたのである。「言へば言ひえに[#「えに」に傍点]」で、言はうとすると「常にえ言はないで」の義で、詞章の上の例は稀であるが、実際には、多く行はれたらしい。平安朝の文学に屡※[#二の字点、1−2−22]現れ、武家時代にかけて、次第に「艶《エン》に」と言ふ宛て字に適当な内容を持つて来た「えんに」と言ふ語は、実はこの「えに」の撥音化なのである。「言はゞ」或は「言へば」の前提に続いて、「言ひえに」が習慣
前へ
次へ
全33ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング