盛んになり、右大臣家との争いは終る事になる。
次に、源氏の子供達を中心にして、物語の進みを辿《たど》ってみる。源氏は本とうの子の少い人で、たった二人しかなく、男は葵上との間に生れた夕霧、女は明石上の生んだ明石中宮である。ほかに養子《やしないご》が二人ある。一人は秋好中宮と言って、六条御息所と、その夫、早く亡った先帝《せんだい》の皇太子との間の子である。六条御息所は皇太子の死後、十分な門地財産を持って六条に住んでいる時に、源氏と相知る事になる。非常に貴族的に見識高く、嫉妬心の強い人で、源氏の自由な恋愛生活を怨《うら》んで、生前は生霊《いきりょう》となって葵の上を苦しめ、死後は死霊となって、源氏の二度目の北の方紫の上を苦しめる。源氏は其|怨霊《おんりょう》を慰めるために、其娘を養い娘として、中宮にまでするのである。いま一人は、源氏が雨夜階定《あまよのしなさだめ》以後に得た新しい恋人の夕顔が、それより先に頭中将との間に生んでいた子で、玉鬘《たまかずら》と呼ばれている。源氏が夕顔を連れて、或古屋敷で一夜を過すと、怨霊が出て来て、女をとり殺してしまう。幼児は其直後九州へ下ったのだが、二十になって又京都へ上って来て、偶然の機会から源氏に育《はぐく》まれる事になる。当時、実の父頭中将は内大臣となっている。太政《だじょう》大臣である源氏と、内大臣との間は、会って話し合う事があれば、互にうちとけて昔の親しさに返るのであるが、源氏の長男夕霧と内大臣の娘雲井雁との恋愛問題があったり、其他周囲の事情が色々加って、二人の間は、解決の出来ないものになっている。そうした所へ、玉鬘が現れてくるのだ。源氏は玉鬘を宮中へ上げて尚侍にしようと考えているが、一方には、自分の手もとに置きたいと言うほのかな恋心も湧いて来る。若し宮中へさし上げる段になれば、実父に打ち明けねばならぬのだが、其も何となく気の進まぬ事である。そうした心の定まらぬ日がつづいた後、源氏の伯母で、内大臣の母大宮の病気を見舞った機会に、内大臣に話してしまう。併、結局玉鬘は、宮中に入る前に、鬚黒《ひげくろ》[#(ノ)]大将と言う武骨な貴族に奪われ、其妻となってしまうのである。此には、内大臣の計画がはたらきかけているのである。
こうした事件の流れの中で、源氏は清らかな心で振舞ったり、時には何となく動いて来る人間悪の衝動に揺られたり、非凡な人であ
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