久しい時間をかけての事実は、その原因を明らかに示すことは出来まい。さうした観察の為になる、平凡な事実を今すこし書きつけておかう。

     十 荷前 かたみ

その年に出来た初刈り上げの荷、野からまづ搬び出した稲を神に示す地方農村古代の行事があつた。地方の旧国から、その誰にも触れさせてゐぬ荷を、宮廷に搬ぶことの意味において、のざき[#「のざき」に傍線]と言つたのである。此初荷を更に宮廷から、伊勢や、陵墓へ進められる使者をのざき[#「のざき」に傍線]使ひといふ。荷前と書いた字面の示すやうにまつさき[#「まつさき」は太字]の荷と言ふことである。久しい慣用の後、中世までも此語は使はれた。其様に、のざき[#「のざき」に傍線]は先荷の意味を見せた逆語序の語である。而もの[#「の」は太字]と言ふ形でさき[#「さき」に傍線]と熟した形を見ると、音韻変化がに[#「に」は太字]からの[#「の」は太字]に単純に行はれたのではない。もつと有機的な屈折があつたのである。其と今一つ、われ/\が機械的に考へてゐる、に[#「に」は太字]とさき[#「さき」は太字]との結合が、さき[#「さき」は太字]と荷[#「荷」は
前へ 次へ
全61ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング