」と言ふ続き合ひを見ると、右の沓下と、それからその上に、飛鳥郷人の霖雨期間に謹慎をして縫ひあげた黒沓をはいてゐると言つた姿で、沓と韈の著用次第もよくわかるし、語の時代は又溯つて藤原奈良時代或は其より古いものと言ふことは出来るらしい。勿論、語の意義も、そのまゝ持続してゐた様子が見える。さうすると、万葉集における語の位置排列が、二通りあつたといふことになる。
通常の語序をとつた文章では、先行する筈の語の、反対に後置せられてゐると言つてよい形の熟語が、飛鳥時代にあつたことの想像せられる程、其に続く長い時代に渉つて生きて居り、或はもつと後世までも、固定して熟語として残つたことも考へられるのである。而も其事実は、当然かういふ事情の内に行はれてゐたのである。日本語の普通語序にあるものとして用ゐられた極めて多くの熟語に介在して、すつかり語序の違つた、謂はゞ逆になつた語のあることである。さうして、今日残つた古い文献の綜合せられ考へられて来た我々の知識では、どちらか一方の語序を以てする表現ばかりの行はれてゐた時代が空想せられ易い。勿論文献の上では出来るだけ古代に溯つて見ても、普通語序の熟語が極めて多く、
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