落《モガリ》など言ふ、戦場・城塞などの防衛の障碍物の名として伝へられてゐたことが思ひ起される。近代になつても尚、乾し物竹の類の枝の多くついてゐて、長い布などの掛けられるやうになつたのを、紺屋などが使つてもがり[#「もがり」に傍線]と言ひ、其聯想から、口実を設けて、言ひがゝりし、絡んでかゝる詐偽者・喧嘩売り・美人局《ツヽモタセ》の類の無頼漢を言ふことになつてゐた。
古代の仮葬場《モガリ》(殯所)に設けた障碍物が、直にもがり[#「もがり」に傍線]と言はれるやうになり、更に転義を経たものであらう。此等語義の中、古いものなる「仮り喪」の儀式まで溯つて考へる事は許されてよい。喪葬の最初の形で、次で行はれる儀礼を予想してゐるものとしての名、仮喪なる称呼を以てすべきところを、古い逆語序の形を以て言つてゐたのである。殯に続いて、真葬のあつたことは、そのまゝ正当にうけついだとは言へぬまでも、今日尚日本民俗の上に痕跡の歴然としてゐる両墓制は、二つ或は二つ以上の喪葬行事を経なければ、完全な喪事を営んだといふ満足感の起らなかつた古代の民俗印象を、ある点まで伝へてゐるものと言うてよい。
さうした喪葬の行事の重複
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