小文字、1−12−34]擬声語と語尾との粘着
言語の起原を擬声にありとする学者もある程で、とにもかくにも吾々の思想表現の発程に大なる勢力を、此の類の言語が持つてをつた事は事実である。擬声語は副詞の語根ともなるべきものであるから当然体言である。
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とゞろく  とよむ  そゝぐ  よゝむ
おどろく  ころぶ  うごく  すゝる
せゝらく  すふ   ふく   さわぐ
きしる   たゝく
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これらの語根をなしてゐる擬声語は、総て副詞的の職分を持つてゐる。この場合、語尾は語根の意を拡張することなく聴覚を直に対象の動作に移してゐる。
   ※[#丸C小文字、1−12−35]品詞の語根と語尾との粘着
或る種の用言から他の用言に転ずる例は珍らしくない。けれども、それが語尾に対して副詞的の位置をとる場合には直に用言の語根と称することが出来るのである。例へば、
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よし>よる     うれし>うれしむ
あらは>あらはる  ころ>ころす
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是等は副詞なり形容詞なりの語尾を脱して直に用言語尾に接してゐるので、語根の副詞的の位置を有してをることは明かである。
   ※[#丸D小文字、1−12−36]動詞の名詞法と語尾との粘着
動詞の連用法連体法が体言的の性質を持つてゐることは知られてゐることであるが、将然法も終止法も乃至は已然法さへも名詞となることの出来る傾がある。連用法と語尾との用言を構成する事は、其の純粋の体言である性質上分り切つた事実であるから今は省く。
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さかる  うわる  はやす  くらす
うまる  くらむ
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などは、将然法と語尾との関係と見ることが出来る。これについては、将然副詞法を参照してほしい。
終止法に付いては、其れが用言の語根即ち体言となることが出来ると云つたならば、不思議に思はれるかも知れないが、是は用言の原始活用の章を見てもらひたい。
近世になつて連用法を語根とした或は動詞的発想に体言的の意識をさしはさむところから連用名詞が語尾をなしてをる様に見えるものが多い。うかべる・いきる・すぎるの様な連体から変形した終止法を形づくることもある。



底本:「折口信夫全集 12」中央公論社
   1996(平成8)年3月25日初版発行
※題名
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