[#「くどく」に傍点]て周到に働く心持ちが、繰り返しをして、若しあるかも知れぬ不足を補はうとするのである。
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丹比野《タヂヒヌ》に 寝むと知りせば、堅薦《タツゴモ》も持ちて来ましもの。寝むと知りせば(履中記)
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此などは二句を五句でうち返す形の中の殊にくどい[#「くどい」に傍点]ものである。声楽の必要は二の次であつたからである。
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浅小竹原《アサシヌハラ》腰なづむ。空は行かず。足よ行くな(景行記)
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三・四の句は、内面には対句となつてゐる。外側は、一・二句と三・四句とが対句の形をとつて居る。かうした二つの部分に分れる形が、両方片手に延びて、頭勝ち尻太になつて、不整頓なものになる。併し、部分々々に対句を求めようとする心は見える。
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をとめの 床の辺に、わがおきし劔の大刀。その大刀はや(景行記)
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第五句は、上四句に対しての対句なのである。対句が意識せられて来ると、段々|囃《はや》し詞に近づく。
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尾張に直《タヾ》に向へる、尾津《ヲツ》の崎なる一つ松、あせを。ひとつ松 人にありせば、大刀|佩《ハ》けましを。衣《キヌ》着せましを。一つ松、あせを(景行記)
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此形が、深く頭に入つて、
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やすみしゝわが大君の、朝戸にはいより立たし、夕戸にはいよりたゝす 脇づきが下の板にもが。あせを(雄略記)
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と言ふ様なものになつて、対句としての意味なく、単なる囃し詞になつた。此歌などは、対句としても長くなつて来たもので、朝夕の違ひだけで対句としての位置を音脚に占めるので、畳句と言うてもよいのだ。
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道にあふや、尾代《ヲシロ》の子。天にこそ聞えずあらめ。国には聞えてな(雄略紀)
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前のは一句で対句を作つてゐるのに対して、此は二句で形式の整うた対句を拵へてゐる。
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もゝしきの大宮人は、鶉とり領巾《ヒレ》とりかけて、まなばしらをゆきあへ、には雀うずゝまりゐて、今日もかもさかみづくらし。高光る日の宮人。ことのかたりごとも。こをば(雄略記)
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こゝになると、内容の対句は形式の対句にな
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