まれびと[#「まれびと」に傍線]の信仰は、多くの古典のみか、後代久しく、中には今に至るまで、民間伝承に其姿をとどめてゐる。古事記の例を見ると、霊物と威霊と二通りの形に、一つの影向《ヤウガウ》を伝へわけた跡を見せてゐる。前段後段に、原因関係を示す形をとつてゐるが、実は一つ事の語り分けに過ぎない。而も日本紀では、これを単なる海原を照し来る光り物、即、外来魂として取り扱つてゐる。此点に於いては、極めて都合よく、まれびと[#「まれびと」に傍線]観念の種々な過程を説明したものと言へる。第二の日本紀の例で見ると、異人の旅は、如何なる邑落をも、障碍なしに通過することの出来た事を示してゐる。更に、男性の祖霊の形が椎根津彦であり、弟猾《オトウカシ》は祖霊の女性なるもの――兄猾との対照から男性と見て来てゐるのは誤りで、当然この伝への出来る訣があるのだ――として、一対のまれびと[#「まれびと」に傍線]の形を見せてゐる。そして、考妣二体の神が呪詛にあづかる点をも具へてゐる。播磨風土記を見ると、この例は極めて多いが、其中の一つを引いたので、最適切に、彼岸の国土から農村行事の時を定めて、一体の主神及び其に伴ふ群行
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