前に述べた様に女性を主とするのは、宮廷が最甚しいものと見えるのである。
語部の伝へてゐた呪詞系統の文学は、主上其他に段々伝へられて来る。其間に次第に歴史的内容を持つて来、過去の事実だと云ふ反省を交へて来る。すると其処に、時間的の錯誤が起つて来る。過去の事だと知り乍ら、現在の事だと感じる矛盾が、日本文学に沢山ある。其ほど時代錯誤を平然と認容してゐるのが、日本文学だ。それと同時に、日本の文学の特徴――誇るべき特徴ではないが――歴史的に意義あるものは、地理錯誤である。此亦、盛んに行はれてゐる。宮廷で唱へられた呪詞を、みこともち[#「みこともち」に傍線]が地方へみこともつ[#「みこともつ」に傍線]て行つても、同じ効果が生ずる故に、其土地が初めて宣下せられた地と感じられる。さうした錯誤の第一義的なのは、日の御子のみこともたれた[#「みこともたれた」に傍点]詞章に依つて、天上・地上一つと信仰した所から起る。地上の事物に、天《アマ》・天《アマ》つ・天《アメ》のなど言ふ修飾を加へたのが、其だ。日本古代の文学を見るには、みこともち[#「みこともち」に傍線]の思想及び時代並びに地理の超越、この三つの点を考
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