詞を伝承し記憶を新にさせることにあつた。而も其詞章は、天地の元《ハジメ》、国の元から伝はつてゐる、と信ぜられた一方、次第に無意識の変化改竄を加へて、幾多の形を分化した。又季節毎に異人の来訪を欲する心が、週期を頻繁にした。その都度、扮装《ヤツ》した神及び伴神が現れて、土地の精霊に降服起請を強ひるのが詞の内容であつた。此が即ことゞひ[#「ことゞひ」に傍線]で、後世の所謂いひかけ[#「いひかけ」に傍線]・唱和及び行動伝承としての歌垣のはじめに当る。このことゞひ[#「ことゞひ」に傍線]に応へない形式からしゞまの遊び[#「しゞまの遊び」に傍線]――後の※[#「やまいだれ+惡」、第3水準1−88−58]見《ベシミ》芸――が起つて来、更に、口を開いて応へる形――もどき芸――が出来て来る。この両様の呪詞が、一つは所謂祝詞と称せられるものゝ原型であり、応へる側のものが寿詞《ヨゴト》と称する、種族・邑落の威霊の征服者に奉ると云つた意味の寿詞――賀詞――となつて行つたのである。
この呪詞が、常世の国から将来せられ、此土のものとなつたと考へ変へられて行く様になつた。が、その威力の源は、常世にあるといふ記憶を失
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